こころー夢の河辺でー

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2010-04-11

09:55

ブログトップ 記事一覧 記事を書く 管理 ログアウト ヘルプ こころ-夢の河辺で-<前の10日分

2010-04-01 山桜(100) 編集

 公園で桜が咲いている。近くで見る花弁は綺麗だが、離れると、桜は全体としてくすんだ灰色の布に見える。うす桃色の斑が広がって見えるのは遠くの山の桜だ。公園の桜の木の下に座り、春がすみが漂う景色を見ていると、なんだか頭もぼんやりしてくる。

 向こうの木の下で騒いでいた企業の団体が居なくなって、あたりが静かになった。もうそろそろ暮れ方だろうか。私はあくびをして立ち上がった。

 公園の出口に近い山桜の木の下に、母子の一組が座っていた。野点だろうか。赤い毛氈の上に火炉を置き、お湯を沸かしている。

「どうぞ、お寄りになりませんか」

 声をかけてきたのは母親の方らしい。娘の方も柔らかな笑顔で振り向いている。

「お茶ですか、でも」

「どうぞ遠慮なく、桜餅もありますよ」

 この人たちは見ず知らずの人間に声をかけて平気なのだろうか。

 お茶も正座も苦手だなと思いながらも、勧められるまま、私は、しぶしぶ毛氈の上に座った。

 娘が、火炉の上にかけた湯沸から、小さな椀にお湯をそそいで温め、ついで、茶葉を急須に入れ、ゆっくりと傾けてまわして椀に注ぐ。母親の方はその一連の所作をじっと見守っている。ひとつの儀式的な作法なのだろう。

 やっとお茶が差し出され、一口飲んでみる。

「うまい」思わず口に出た。

「そうでしょう、こうして飲むお茶は格別なのですよ」母親の方がいう。

桜餅もいかがですか」

「戴きます」

 甘い香りがする桜餅を食べながら、いつか、初めの緊張も遠慮の気持ちもほどけていった。あたりは暗くなっているが、外灯の明かりが私たち三人を照らしている。

「この近くにお住まいですか」と聞いてみた。

「ええ」と二人して笑う。なんだか懐かしい昔の知り合いにでも再会したような気分である。

「あの、私たちあなたをよく存知あげているのですよ」

「えっ、そうですか」

 私は近所に住む人を思い浮かべてみたが、思いつかない。ではこの公園で会っているのだろうか。

 しばらく雑談をして、席を立つことにした。公園の入り口で振り返ると、外灯の円い明かりの中に、ひとつは大きく、ひとつは小さい二本の山桜の木が寄り添って立っている。それは仲のいい親子のようである。



 

 

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 長い時間眠っていたような気がする。気がつくと、なにかあたりの様子がおかしい。おれは高い台座の上に座っていて、すぐ脇の階段を絶え間なく人が行き来している。後ろでは、ひっきりなしに、がらんがらんと大きな鈴の音がして、落ち着かない。

 いったいおれはどこにいるのだろうか。首をねじまげて後ろを見ると、日本の神社だ。何を祀っているのか知らないが、祭壇に向かって人間たちが拍手を打って、頭を下げている。

 なぜこんなことになったのだろうか。おれはこれまでのことを考えてみた。そもそもおれは、岩石のうちから、獅子の体に鷲の羽をもつグリフィンになる筈だった。それがどうしてこんな場所にいるのか。

 本来なら、西洋の寺院の守り神としてその入り口に座っていなければいけないのに、なぜ、こんな場所にいるのだろうか。はっとして階段の向こう側を見ると、犬に似たようなのが座っていて、ぼんやり口を開けて笑っている。

 あいつは獅子じゃないし、羽を持っていないし、グリフィンじゃない。とすると、対になっているおれも羽がなくて、あんな間の抜けた格好をしているのだろうかと考えていると、若い男女が近づいてきた。

「このコマイヌ、ちょっと変わってるね。ほら、ここのところの模様がさあ」

「へえ、なんだかまるで羽みたい。それに口が妙にとがってるよ」

などと云っている。とすると、やっぱり、おれには小さいながら羽があるのだろうか。鷲のくちばしを持っているのだろうか。それに、変なことをいってたけ、このこま犬とかなんとか。おれはこま犬なのか。

「おい、おれたちはこま犬かい」

対の相棒に聞いてみたが、相棒は笑ったまま答えない。愛想はいいが無口なやつだ。

 日が沈んで夜になった。夜になるとさすがに参拝客も来ない。相棒の狛犬は口を開けたまま眠っている。どこかで犬の遠吠えが聞こえる。日本の神社は深い森の中にある。ふくろうのほうほういう鳴き声が淋しい。

 おれは生まれ故郷のユーラシア大陸のことを考えていた。おれはインドで生まれ、エジプトギリシャで育ち、エルサレムの王に仕え、アレキサンダー大王の馬として活躍し、その後王家の紋章にもなった。それが、こんな東の果てで犬に成り下がるとは。

 おれには3500年の歴史がある。だが、この国の歴史はせいぜい2000年。それも、自分で文化を創ってきたわけではない。最初は中国の、明治維新以後は西洋の文化を新しがって利用しただけじゃないか。文字も思想も技術も結局はただの猿真似に過ぎない。もし、猿真似ではない文化があるとしたら、それは、江戸時代鎖国の200年だろうか。でも、もしその時代に狛犬の原型ができたとしたら、おれはいったい何だろう。 

 さっきから小雨が降っている。そろそろ、明け方だが、それにしても、この国のじめじめした湿度は性に合わない。また、今日も大勢の参拝客の目に晒されるのかと思いながら、足元に目をやると、台座は濡れて、早くも緑色の苔が這い上がってきているではないか。

 

 

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はっとり 2010/03/31 20:53

グリフィンだったことだけを覚えている魂が、狛犬に成り下がってしまいました。時世はグリフィン以外の肉体だったことも思い出せますように。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/kuromura/20100315 2010-02-10 岩神(98) 編集

 あちこちから小さな水音が聞こえる。集まってくる音は、澄んだちょろちょろいう音のほかに、遠い地鳴りのようなごんごんいう低い音もある。丸い天井に覆われた洞の中は、清れつな水に浸されているようだ。ここは外界から遮断された世界なので、外の音は一切聞こえない。

 昨日から、私は、この島の洞穴の中を調べている。山歩きの途中の、ふとした発見がきっかけだった。岩山の崖の巨岩の隙間から、生温かい空気が漏れ出しているのに気づき、重なった岩の間に溜まった土をかきだして中を覗くと、奥に続く入り口が見えた。

 私は懐中電灯を手に穴にもぐりこみ、岩伝いに降りていった。岩は階段のように下方に続いている。人の手が加わったような感じもあるし、行く手に巨岩がうねるように幾重にも横たわっているのは自然のままのようでもある。折り重なる岩は電灯の明かりに鈍く光り、その白い岩肌には緑色の斑点も見える。

 片方の手で岩の壁に触れながら降りていくと、壁がぬるぬるしているのに気がついた。水が浸みだしているのだ。見ると、その岩の表面には微細な文字がびっしりと刻まれている。古代の絵文字だろうか。ここに住んでいた住民が書き残したものだろうか。だとしたら、ここは先住民の住居の跡だろうか。

 その時、水の流れる音に気がついた。いつか湿った砂の上を私は歩いているのだった。水はすぐそばの岩の間を流れていた。細い水の流れは奥のほうから入り口ほうに続いている。 

 上から垂れ下がった大きな岩を潜ると、突然、広い空間に出た。円い天蓋になった岩の上方からひとすじの光が射していた。そして、目の前のひときわ広い岩の上に、光を受けた緑色の像が見えた。まだこの世界にはこんな所があったのだろうか。まだ見たことのない場所だった。私はその場に座り、ひと息ついて、リュックからハンマーを取り出した。

 像は、上下二つの塊からなる大きい雪だるまのような形をしていた。意図も無く生成された自然の造型物だったが、それにもかかわらず、何か意志をもって創られたように、目に当る部分には二つの青い石が輝き、像は強い怒りの表情を浮かべて私を見ていた。

ーおまえはだれだ。ここは人間が来る場所ではない。

 像が、思いがけず喋った。

ーおまえは綺麗な心を持っていない。邪悪な大人だ。帰れ。

 帰れというその声は洞の中に木霊した。

 水の音が急に高くなった。ごうごうと地鳴りのような響きが私を襲い、巨大な像は私の上にのしかからんばかりだった。私はその場に立ちすくみ、次の瞬間、恐ろしさに震えながら退き、出口のほうへ走っていた。

 あれは見たことのない恐ろしい岩神だった。岩神は腹を立てているのだ。想えば金になる石ー翡翠の原石を採取する私のような山師を心から憎んでいるのだろう。





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はっとり 2010/03/10 20:08

そんなに大きな翡翠は時価にしたらいくらになるだろうと、下世話なことを考えてみました。わたしも綺麗でないココロを持った大人ですね。

kuromura 2010/03/11 17:35

日本の翡翠新潟県糸魚川の周辺にあるそうですが、天然記念物に指定されていたりして、今は海岸を除いては採取はできないようです。以前行ったとき、駅近くの海岸でそれらしい藍色の石を拾いましたが、それはただの深層岩ということでした。貴重な宝石が簡単に見つかるはずがないですよね。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/kuromura/20100210 2010-01-30 山風(97) 編集

 その男に出会ったのは、山のほのぐらい木立の中。小さな流れに架かる橋の上。下から澄んだ水音が立ち上っていて、ぼくらは、橋の途中で互いに目を見交わした。男は赤い帽子を被っていて、どこか懐かしい。いつかどこかで、会ったような毛深い顔だつた。

 ーこんにちは。知り合いではないがぼくらは声を交わす。それは山での習慣。会う人は誰でも山の仲間だから、街ではしない挨拶も気軽に交す。

ーまだかなりありますか。

ーいやもうすぐですよ。

ーありがとう。

ーおつかれさん。

 すれ違った時、互いのリュックがぎいぎいきしんだ。

 静かなどんぐりの林を過ぎ、息せき切って急な岩場を登ると、やがて目指す山頂が見えた。振り返ると、下りて行く赤い帽子が若葉のあいだでちらちら揺れている。

 風が吹いてどんぐりの葉が揺れ、帽子が転がる。あわてて追いかける男。どこかで見たような赤い帽子だった。そういえば見たよな顔だった。あの男は‥‥‥子供の頃見たサーカスの熊に似ていた。

 サーカスの熊五郎は、赤い帽子をかぶり、玉の上に乗っていた。私は一番前の席で、彼を観ていたっけ。そのとき熊が云った。

ー面白いかい。そうだろうな。お前さんはまだ子供だもんな。こうして不安定な円い玉の上に乗っていると、世界が見えてくるんだよ。この世界は、見世物になる側と、それを見て楽しむ側の二種類に分かれる。俺たち動物はいつも見られる側だよな。人間でも有名タレントは見られる側だ。見られる側はいつも見る側の反応を気にしている。だって、自分が見られなくなったら、終わりだからな。俺たちはいつも見る側の気持ちを気にしながらびくびく生きているんだ。つくづく俺はこの世界がいやになったよ。

 ごうと風が吹き過ぎた。また、木の葉がざあっとどよめく。ああもう山頂。ずっと遠くまで見渡せて、いい風、いい気分。

 あの熊五郎は今どうしているだろうか。まだ、生きているだろうか。それともすでに死んで、檻と鞭から自由になったのだろうか。一瞬、目の奥で、よたよたとした足取りで玉によじのぼる熊五郎の姿がよみがえった。

 ああ山はいいーここには自由をそこなうものはない。またいつか会おうよな、熊五郎。

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