一応のシリーズ完結。
一つ前の3巻目では物凄い大風呂敷を広げまくっていて、『ブギーポップは笑わない』からリアルタイムで読んでいる身としては嘆息するしかないシロモノだったが、最終的には意外とどうにかうまく着地していた。というよりも、「大変なことだと思っていたが、本当に重要なのはそこではない」だとか、「一大事のように見えて、本質は別のところにある」みたいな価値観の転換はもともと上遠野作品のモチーフとして繰り返し現れてきたもので、『~パンドラ』や『~ペパーミントの魔術師』も「世界の危機なんてそこらにありふれていて、ごくつまらないことが世界の命運を決めてしまうこともよくある」みたいなプロットで成り立っていた。今回もそれを一際アクロバティックに決めてみせただけなのかもしれない。にしても、ハッタリのスケールがデカすぎるが。
なにしろあの末真和子が統和機構の次の“中枢”に選ばれていて、その統和機構も、さらに上位で闘争している二人の魔女の隠れ蓑にすぎなかった、という話である。十数年前に『~笑わない』を読んでいた頃の自分に聞かせても冗談としか思わないだろう。というか、青春小説の佳作『ブギーポップは笑わない』の想い出を大事にしたい一読者としては、末真和子まで能力者だったという話は受け入れ難いものがあるし、霧間凪に至ってはもう何が何やら。ついでにあの紙木城直子までもが、当時の想定を越えて重要人物として再登場する。まあ直子に関しては、彼女を助けられなかった凪の後悔、は書き残されていたテーマでもあるのだが……。先に挙げた例に従っていえば「人類を救ったのはエコーズを匿った直子の優しさだった」というのが『~笑わない』だったわけだ。閑話休題。
魔女の闘争が終結した時点で、世界そのものに与えた影響により、それら闘争自体が「なかったこと」になってしまうというくだりのハッタリは、さすが上遠野浩平の十八番という巧さである。
そのときに生じた変化を表現するのは、解けてしまった氷の彫刻の形状を後から推測するようなもので、どうしても無理であり、また意味のないことだ。
人間ではその認識の片端にすら辿りついていない領域に起こった変動は、太陽が爆発すれば日光もなくなるから、昼夜もなくなるというような意味で、なにかを消し去った。
以下延々と一ページ余りも、「それまであった魔女の影響が世界中から消える」描写が続く。
結局、魔女はいなかったことになったので話は統和機構のレベルに戻る。わざわざ『ブギーポップ~』を冠さない別シリーズにした意味もこれでわからなくもない。何しろ魔女から見ると統和機構(の中枢であるオキシジェン)が緩衝体になって魔女から「人類を保護」していた(!)というのだから。ブギーポップが出てくる相手ではなかったともいえるけど、では逆にブギーポップのいう「世界の敵」って何なんだろうというのは正直いまだによくわからない。
魔女同士の争闘というのは『冥王と獣のダンス』(作者のデビュー前の習作が原型だという)に繋がる設定で、どうやら『冥王~』が遠未来の話らしいし、二人の魔女の対立そのものがこの宇宙の根本的原理である「相剋渦動」に基づくことも示唆される。「相剋渦動原理」は『冥王~』よりさらに未来の話にあたると考えられる『ナイトウォッチ』シリーズにおいて宇宙船の超光速推進技術を実現している理論である。そのナイトウォッチシリーズに登場する「虚空谺」と呼ばれる敵は『ブギーポップは笑わない』におけるエコーズと同じ存在だし、ついでに『ソウルドロップ』シリーズに登場する怪人ペイパーカットもおそらく同様。と、全ての上遠野浩平作品を結ぶ設定に今回もう一つ「相剋渦動」が加わったというわけだ。まあ設定のみならず上遠野浩平はどのジャンルでも毎回ほぼ同じような話を書いているわけで、そこは見事に強烈な作家性だと思う。
魔女に話を戻すと、霧間凪というキャラはファザコンを自認する一方で母親の存在には一切言及しないし、最初に義弟を紹介する言葉「オレのあしらいがうまくて、将来女たらしになるんじゃないかと心配」という言葉も、後に主役を張る谷口正樹本人のイメージと全く噛み合わない。つまり凪本人の言動から推測されるのは、「家族」が彼女の唯一の弱点ではないか、という読みになるのだが、正樹が瀕死になった際にはそのことで深刻なダメージを受ける役は織機綺に持って行かれるし、今回も魔女同士の直接対決というお誂え向きの仕掛けを用意しながら、実母・長谷部鏡子との相克はほとんど描かれていない(ついでに継父にあたる谷口茂樹も。何のために登場したのやら)。小説として見ると今回のシリーズ最大の難点はそこだろう。話を進めたのはいいけど、ある意味最大のテーマを拾い忘れてるんじゃないのかと。
まあ、とにかく魔女の話には決着がついたし、今まで状況にコミットしつつも本人の認識はある意味で蚊帳の外にあった霧間凪の立場もある程度ハッキリしたので(それでも今回も凪と統和機構の話はほとんど切り離されて進行するのはある意味見事だが)、あとはサクッとシリーズ完結させてほしいです。ブギーポップさんもたまには登場させてあげてね。