Hatena::Grouplightnovel

shanghai / ラノベ部 RSSフィード

2012/03/19(Mon)

小林雄次ウルトラマン妹』(スマッシュ文庫小林雄次『ウルトラマン妹』(スマッシュ文庫) - shanghai / ラノベ部 を含むブックマーク はてなブックマーク - 小林雄次『ウルトラマン妹』(スマッシュ文庫) - shanghai / ラノベ部

読みは「ウルトラマンシスターズ」です。主役ウルトラマンの名前は「ジャンヌ」。

表紙の画は顔が変身前、首から下が変身後のデザインになっていて、本編には登場しない姿です。変身前のヒロインあかりが変身後のジャンヌコスプレをしていると解釈すべきか。まず表紙に変身後の絵を入れなかったのは問題だと思う。せめてカラー口絵に変身後のウルトラマンとしての全身像をちゃんと入れてほしかった。これは編集の責任ですが。

最初に本書を知った時には、ウルトラマニアのラノベ作家が企画を持ち込んで、円谷プロを騙くらかして「公認」を取り付けたのかと思った。ところが著者は本家ウルトラの脚本家でもあるというので、逆に円谷プロ発の企画なのか? と考えたが、あとがきによるとそのどちらでもなく、スマッシュ文庫編集部(PHP研究所)の企画で作者の人選も編集部、その後で円谷プロに持ち込んで「監修」を受けたという経緯らしい。

本文の前には、

本作品は小説向けオリジナルストーリーであり既存の映像作品とは異なる世界観で構成されています。

という断り書きがあって、完全にオフィシャル設定と公認されたとも言い切れないのかもしれない。

「ウルトラの脚本家が初めて書いたラノベ」という触れ込みだったので、いかにもラノベのお約束を知らない人が書いた生硬な内容かと心配したがそんなこともなく、というのも作者の小林雄次特撮ヒーローもののノベライズなど、厳密にはラノベ作家とは言えないかもしれないけど半分ラノベと言ってよいジャンルの小説は書いているのだった。

ちなみに脚本家として手がけたウルトラシリーズ(正編)は『~マックス』『~メビウス』そして『ULTRASEVEN X』のメインライター。……ということを読む人はまず最低限知りたがっているはずなのだが、著者略歴にもあとがきにも記載がない。このあたりも編集の配慮が足りないと思う。

以下本編についてですが、私はウルトラマンは好きですが平成のはちゃんと観てはいないので、概ね昭和のウルトラ観を前提に読んだことを最初にお断りしておきます。

まず、ストーリーの割に長すぎる。文庫本としても結構な厚さがあるので、ラノベ慣れしていないウルトラファンが読もうとした場合ちょっとしたハードルになるのでは。もう少し刈り込めたと思う。

一応、過去のウルトラシリーズが史実としてある世界で、しかしもう何年もウルトラ戦士が地球を訪れていないので忘れられかけているという設定。過去作には小ネタとして触れる程度だが、メビウスへの言及もあるなど時系列は曖昧である。

高卒ニートの主人公が、中学生の妹あかりと出かけて怪獣に襲われ、それを追ってきた(?)ウルトラ戦士に合体して身体を貸してくれと頼まれる、という導入はウルトラシリーズのお約束を忠実になぞっている。インナースペース(?)での対話もそれっぽいが、そのウルトラマンジャンヌ)が女性だったため男とは合体できず妹のあかりのほうが選ばれるという展開になる。主人公がウルトラマンに選ばれそこなうという趣向はちょっと面白い。しかしジャンヌはあかりの「命の灯が消えようとして」いるので自分と合体すれば助かる、とも言っているので、どちらが理由なのか少しぼやけている部分もある。実際にあかりが瀕死という描写がないのも問題で、この小説には直接見せるべき場面をセリフのみで済ませてしまうパターンが多いのが気になる。回想フラッシュバックの入れ方なんかも完全に映像の文法で、小説的でない。

あかりとジャンヌは一心同体になるが、意識は常に共存していて変身すると主人格が入れ替わる。変身アイテムは左手の指環ジャンヌ・スパークで、イメージカラーはピンク。変身前のあかりの胸にもカラータイマーがある、という設定だがこれは胸元を見せるサービスシーンがここにあるだけだった(笑。活動時間はもちろん3分間で、一度変身するとその後12時間は変身できないという制限がある。そこまではいいのだが、あかりとジャンヌの性格がうまく対照にもなっていないので、あまりこの設定が活きていない。二人ともドジっ娘だし、ジャンヌは生真面目な性格かと思いきや、実はウルトラ戦士の落ちこぼれ訓練生見習いで勝手に地球にやって来たことが明らかになるなど、ちょっと一貫せずわかりにくい。あかりが天文マニアという設定なんかも後で効いてくるわけじゃなかったし。

タイトルが『~シスターズ』なのは、ジャンヌもウルトラ戦士だった兄を亡くしているのであかりとジャンヌが妹という解釈なのだろうと思われる。

結局、ジャンヌアムールというもう一人の女性ウルトラ戦士に助けられることになる。アムールは単人格で自ら地球人に変身している。ここでウルトラマンを「擬態型」「憑依型」に分類しているのは少し面白い。アムールの人間体ユキは、地球防衛組織「BURK」の隊員である。

待ってましたの防衛組織だが、BURKは「極秘の防衛組織」であり隊員は別に本業を持ちながら活動するエージェントで、組織の全貌も不明。ここでウルトラマンの定番を大きく逸脱する。主人公の翔太は隊員にスカウトされるが、何しろ秘密の組織なので、基地に詰めていて専用機で出撃するというような展開は全くない。それどころか隊員はユキ以外にほとんど登場せず、後半は「怪獣が出現する原因は主人公にあった」ということが判明して、BURKは必要な犠牲として翔太を抹殺しようとする(!)のである。これは完全に超能力SFによくある敵側の政府機関である。しかも組織の全貌が不明なので指令がどこから出ているのかもわからない、の一点ばりで、実体としての組織が描かれないため、大きな話が主人公の周りの人物のみで展開するという典型的な「セカイ系」になってしまっている。それに超能力SFのパターンとは言ったが、「BURKは怪獣・宇宙人出現の原因があなたの脳であることを突き止めた」などと本人が調査されてもいないのにいきなり結論が出るところも大味だし、「レーザー銃」なんて物が何の説明もなく登場したり、ハッキリ言ってSFとしては見るべきところがない。そもそも過去の防衛組織と違ってBURKの存在を秘匿している理由が何も説明されないし。

小説ならではの防衛隊を描こうという意図なら買いたいのだが、結果これなら最初から敵組織という設定にすればよかったのでは。やはりお約束の防衛チームが見たかったと思う。一応それらしい制服の設定はあるのだが。冒頭でニートの主人公が天文台職員の採用面接を受けるシーンがあるので、てっきりその天文台が実は防衛軍の基地という伏線だとばかり思ったのだが、全く関係なかった(笑。

以下は結末まで書くのでネタバレ警告。

ここでもう一人のヒロイン・美弥が登場。美弥は小学校時代の翔太の同級生で、つまり幼馴染ヒロインである。ところが最終的に本物の美弥は二年前に死んでいたことが明らかになり、美弥の正体こそ真の敵・イーハトン星人であることが判明。イーハトン星人は翔太の想像が生み出した怪獣を具現化する能力を持ち、そのために翔太に執着している。彼女は正体がバレても美弥のまま翔太を籠絡しようとするため、文脈的にはヤンデレ幼馴染(笑)ヒロインになっていて、兄を取り返そうとする妹と修羅場になるという展開なので、ここはいまどきのラノベにおけるラブコメの最新流行パターン(?)にうまく落とし込まれていて非常によかったと思う。

それから、翔太自身が巨大化して怪獣になってしまい、意志に反してジャンヌと戦うシーンもある。主人公が怪獣視点でウルトラマンと戦うという趣向はなるほど小説ならではで斬新と感心したが、あまり突っ込んだ描写がないのは残念。

そして、イーハトン星人はウルトラ戦士にとっても未知の強敵のため、ゾフィー隊長(!!)が力を貸しにやって来るという展開になる。のだが、ここもあかりの身体を離脱したジャンヌが会って武器を借りてきたことがセリフで語られるのみ。まあ、ゾフィー直接登場はインパクトがありすぎるので避けたのかもしれない。厳密にはその後ウルトラサインでやりとりするシーンもあって、オールドファンはニヤリとできるところだ。

そして最後の戦いだが、ゾフィーに授かった新兵器でキメるのかと思いきや、まるでドリフのコントのようなボケの応酬の挙げ句、最後のトドメはアムールが刺して決着、というオチだった。コメディに徹した、ということかもしれないが、最後くらいは主役ウルトラマンが必殺技でバッチリ決めてほしかった……、と思う。

エピローグは光の国に帰るはずだったジャンヌが道に迷ってエネルギーが切れ結局地球に戻ってくる、というベタベタなオチだったので、続編はもちろんありうるでしょう。