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shanghai / ラノベ部 RSSフィード

2012/06/08(Fri)

蒼山サグ『天使の3P!』(電撃文庫蒼山サグ『天使の3P!』(電撃文庫) - shanghai / ラノベ部 を含むブックマーク はてなブックマーク - 蒼山サグ『天使の3P!』(電撃文庫) - shanghai / ラノベ部

ロウきゅーぶ!』のコンビ(絵師てぃんくる)が放つ新シリーズ。

もちろん小学生で、今度はガールズバンドものです。3Pと書いてスリーピースと読ませるのも完全に確信犯誤用)。

小学生を指導することで主人公自身もリハビリ的に挫折から立ち直っていくプロットは前作と共通ですが、ロウきゅーぶ! の主人公が中学バスケではエース級の実績のある選手で、部活が休部になったという外部的な要因で停滞していたのに対して、今作の主人公は「中学から3年近く不登校引きこもり」というガチな設定。中卒ニートかよヘビーだなと思ってたら、高校には入学したものの一度も登校していないだけだった。そして、宅録ボカロPをやってたらたまたま近所に住んでることが判明したリスナーから連絡がきて、逢ってみたら小学生女子だった! という、ある意味ではリアルな展開。

元教会だった児童養護施設に住む三人の女の子が、偏見で見られるのを恐れるあまり逆に学校で孤立しているという設定は賛否ありそうだし、そんな彼女たちがライブにお客を呼べるか? というフックでコミュニケーション不全を真正面から主題として扱ってる割に、その解決プロセスはちょっと消化不良な感じ。テーマが重すぎたのではないか。それに、ネットで少しばかり動画が話題になってもリアルでの集客は遙かに難しいという前提で話が進むんだけど、それなりに知られたボカロPのプロデュースで小学生ガールズバンドがライブやるなんてネット上で告知したら酔狂な人間の十人や二十人は観に来るんじゃないかと思った。地域にもよるだろうけど。

今回は主人公にリアル妹がいて、後半は毎日一緒に風呂に入る(笑。そうか実妹でそのハードルを越えてきたかー、とそこは素直に感心した。扉のキャラクター紹介ではこの妹(メインの三人とは同級生)のプロフィールに「【愛用楽器】YAMAHA P-95(ピアノ教室の練習用)」という記述があって、あからさまに四人目の追加メンバー要員だなと考えられる。今回はなかったけどいずれその展開があるのは熱い。

主人公が不登校になった原因は、書いた詩をからかわれて「ポエマー」と仇名されたというトラウマで、自作の歌をネットで発表することがリハビリにもなっていて、ヒロインに「詞も好き」と言ってもらうことで吹っ切れるのだが、この流れも少し弱いかなと思う。最後に書いた新曲では作詞上のブレイクスルーがあって、というところも表現し切れていないようで勿体ない。ただ詞そのものをライブシーンで披露したのは直球勝負で好感が持てる。音楽、演奏そのものの小説上での表現については、まずこんなものかと。

ヒロイン三人のキャラも記号的にはわかりやすく立てられてるけど、書き込みはもう一つ。そこは今後に期待か。あと同級生のヒロインも一人います。そこはさすがに手堅い。

それから教会の元神父で彼女らの保護者のオッサンが登場するが、このキャラが弱いのが苦しい。もともとヴィンテージ楽器を蒐集していて教会の地下室に音響設備まで用意していたという、仕掛け人みたいな立場なのにあまりロックを感じさせないというか。まあこの人が活躍しすぎると主人公の出る幕がないわけだから、そもそも登場人物の配置ミスかも。たとえば女性にしてもよかったのでは。思えばロウきゅーぶ!でも、ラノベにおいてあまり描かれない傾向のある主人公の両親を登場させていたのは評価したいが父親の立ち位置が中途半端で、一方ママがヒロインの一人として必要以上に書きこまれていた(笑。 家族や、もっといえば他者としての大人の書かれかたが微妙なのはラノベに典型的な弱点に見える。

と、以上のように全部すらすらと分析できてしまって、そこからハミ出すような言葉にし難い情念の部分がないというか、ある意味手堅すぎるのが物足りないとはいえるかも。

もっとも、バスケに続いてバンドというのは作者の趣味からストレートに持ってきた題材らしいです。その割に楽器についてなどあまりマニアックな記述がなく思い入れが感じられないのはラノベ作法を遵守しているためか。時にはそういう部分の過剰さがスパイスとして効果的だと思うんだけど。閑話休題

あとがきより、

ところで趣味嗜好をそのままモチーフに扱ってきたという事実は、自らの内に溜め込んだリソースを刻一刻と消費してしまっていることの裏返しでもあるわけで。いつしか全ての『好き』の資源を使い果たしてしまったとき、僕は以後どうやって小学生を描いていけばいいのでしょうか。

小学生を描くのは嗜好以前の大前提かよ!